樽本 和正
ウェルネス事業ユニット
ホテル・リゾート開発企画本部
ホテル・リゾート第二部 開発企画グループ
課長補佐
青木 香央梨
ウェルネス事業ユニット
ホテル・リゾート開発企画本部
ホテル・リゾート第二部 開発企画グループ
望月 巧実
ウェルネス事業ユニット
ホテル・リゾート開発企画本部
ホテル・リゾート第二部 開発企画グループ
グループリーダー課長
岩田 佑司
ウェルネス事業ユニット
ホテル・リゾート開発企画本部
ホテル・リゾート第一部 開発企画グループ
課長補佐
※所属・部署名は2024年3月1日時点
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ROKU KYOTOのプロジェクトが立ち上がるまでの経緯
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“ラグジュアリーホテル”開業に向けて挑戦したこと・大変だったこと
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ROKU KYOTOのコンセプトやターゲット設定の理由と、そこに至るまでの担当者としてのこだわり
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アジア太平洋地域初進出・ヒルトンのラグジュアリーブランド「LXR Hotels & Resorts」と協業した背景
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建設中や開業に至るまでの近隣住民の皆さんへの対応
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ゲストだけではなく全ての関係者への対応を徹底する理由
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ROKU KYOTOならではの試みや新たに挑戦したこと
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開業を迎えて、ROKU KYOTOのプロジェクトを振り返った感想
望月
この場所は、株式会社しょうざんが経営する「しょうざんリゾート京都」というリゾート施設があり、その敷地の一部をお借りする形で2014 年に会員制リゾートホテル「東急ハーヴェストクラブ京都鷹峯&VIALA」を開業していました。しょうざんリゾートは、どちらかというと日帰りの観光客や地元の方をターゲットにした施設でしたが、東急ハーヴェストクラブができたことによって、 平日・週末・昼夜に関係なく東急ハーヴェストクラブの宿泊客がしょうざんリゾートのレストランなどの施設を利用するといった相乗効果のような仕組みができました。
そこから次のステップとして、東急ハーヴェストクラブの会員だけでなく、インバウンドで増えてきている外国人観光客も取り込んでしょうざんリゾート全体を発展させていきたいという狙いから、新たにパブリックホテルを作ろうということで企画が始まりました。
望月
ラグジュアリーホテルだからというわけではないですが、インバウンド比率が高くなっていく中で、日本人の感性じゃない、いわゆるインターナショナルなサービスに慣れているお客さんや富裕層の方々に満足してもらえるようなハード面・ソフト面含めたサービスがきちんと整備できるかが悩んだところかなと思いますね。
樽本
そもそもホテルは外国の文化であって、日本は旅館などがベースとなる中、外国人ゲストは何が当たり前で何を日本のホテルに期待されているかを学ぶために国内外のラグジュアリーホテルをハードもソフトも見て理解するところから始めなくてはいけないのが、普段の生活や価値観とは大きく異なる点が多いので相当大変だったと思います。
青木
コンセプトは「Dive into Kyoto」です。ROKU KYOTOがある鷹峯という土地は、もともと本阿弥光悦という江戸時代の芸術家が芸術村をつくったという歴史があったり、しょうざんリゾートの初代社長が「美しいものは美しい環境から生まれる」という思想をお持ちだったりと、独自の美学を築き上げてきたストーリーがある土地なので、そこにしっかりとフォーカスを当てました。鷹峯のROKU KYOTOだからこそ体験できる、 非日常でリラックスした唯一無二の滞在経験を没入して味わってほしいという想いからこのコンセプトになりました。
望月
ターゲットに関しては訪日外国人客を取り込めていないという点の他にも課題がありました。リゾート全体として限られたキャパシティのなかで量を追えないため質を高めていく必要があった、ということと、京都の宿泊施設の多くは単に「泊まるだけ」の拠点型になってしまう傾向が強い、ということです。京都は寺社仏閣が多く日本の歴史やカルチャーに興味を持って訪れる海外の方が多い地域です。長距離フライトで長い時間とそれなりのお金をかけてこられる方々ですので、慌ただしい拠点型観光ではなく、喧噪から離れてゆったりと滞在してもらえるような滞在型のリトリートをつくろうという考え方がベースとしてあります。
望月
今回は我々の中に外国人観光客や富裕層を集客できるノウハウが乏しかったので、外部パートナーと組むことにしました。大規模なホテルというよりは、施設・客室数をある程度絞った質の高いラグジュアリーブランドを求めて、その中で共存・共栄できるようなスキームを維持したい。そのうえで、地域が持つ独自性やストーリーを全面的に打ち出していけるブランドを求めた結果「LXR Hotels & Resorts」になりました。
岩田
今回は我々による完全直営のホテルではなく、ヒルトンとの協業になるので、ヒルトンの大事にしていることと東急不動産が大事にしていることをどうマッチさせるかや、お互いWin-Winの関係を築いて相互のベストパフォーマンスをどう出すかというところが、当社として初のラグジュアリーホテルへの挑戦だったということもあり、大変だったかなと感じています。
望月
先ほど申し上げたとおり「LXR Hotels & Resorts」は、地域の独自性やストーリーを大事にするブランドで、デザインの方向性やオリジナルの香りや音楽など決まったものがありません。だからこそ、ストーリやコンセプトをベースにしながら自分たちが目指すものを全て一から形にしていけたことは、面白く勉強になることが多くありました。最後までこだわって、世の中に出すことができた実感も大きいです。
望月
ホテルは作って終わり、売っておしまいではありません。長年そこで運営し続けていくので、周辺住民の皆さんときちんと対話して向き合おうというスタンスを取っていました。ROKU KYOTOがある場所は、しょうざん様が運営する施設が同リゾート内に共存し、周辺には住宅が近く、普通の生活とリゾートが混在してるエリアです。普段の生活に全く影響が及ばないようにすることは難しいので、できるだけ日常生活にご不便がでないように理解を得るための説明会を行ったり、個別にご自宅に伺ったり、夜遅くまでお寺で話し込んだりもしました。建設中から開業の段階に至るまで、さまざまな課題に対して施工会社と一緒に対応しましたね。
岩田
開業の際も、一般公開前に地域の皆さんに先に見ていただく機会も設けたりだとか、開業してからも地域でやっていたお祭りの会場として使っていただいたり、いろいろな形で地域の方と触れ合える機会をつくるといったところも含めてですね。また、しょうざんリゾートの有する施設や環境もホテルの魅力でもありますので、しょうざんの皆さんとも密にコミュニケーションをとって、ホテルだけではなくエリアとして価値向上につなげるように日々連携しています。
樽本
やはり近隣住民の皆さんと良い距離感というか良い関係性に至っているのは、構想段階から建設に至るまで何度も対話を続けてきた結果だと思います。お互い納得するまで丁寧な対話を粘り強く行うことの重要性を改めて学びました。
樽本
私は、以前、東急ハーヴェストクラブ京都鷹峯の開発を担当していました。当時近隣住民の方の対応をおろそかにしていたつもりは無かったのですが、ROKU KYOTOのプロジェクト参画前に「東急ハーヴェストクラブの時はあまり意見を聞いてもらえなかった」といったご不満が近隣住民の方々にあることを聞いて大変申し訳なかったです。今回は、以前よりも住居エリアと工事エリアとの距離が近く、より丁寧な対話が必要になったと思いますが、距離の問題ではなく何らかのご不満がある場合は事業者自ら地域と向き合う姿勢が必要だと思いました。
望月
本当は観光地が栄える恩恵を、近隣に住む人もメリットとして享受できるのがベストですが、正直そこを見つけるのは難しく、だからこそなるべく迷惑をかけないということが重要でした。やはりその地域の人たちに愛されてない施設っていうのは長く繁栄しないので、良い施設だと言ってもらえるようにやらなければならない。という意識がありました。対ゲストじゃなくても、結局その姿勢って全部間接的にゲストに伝わってしまうので、そこの空気感を開発段階からどう作っていくかというのも大きな挑戦だったと思います。
青木
開発メンバーで「Dive into Kyoto」というコンセプトをつくりましたが、それを実際に運営する人たちにいかに浸透させていくのかというのも、大きな挑戦の1つでした。コンセプトが浸透すると、サービスを提供する上で運営するスタッフ1人ひとりの判断基準になりますし、サービスを一定の質に揃えることができます。そのため、共通認識を作るために運営する人たちと我々開発メンバーとで合宿をして、「Dive into Kyoto」とは一体どういうものなのか、それを体現するためにどういうサービスをしたらいいのか、を話し合いましたね。1泊2日で密度を高めて行ったのは、他のプロジェクトではあまりない進め方だったかなと思います。
樽本
少なくとも当社のホテル事業では、運営メンバーまで含めた認識を統一するためのコミュニケーションというのは初めての試みだったと思います。開発段階の担当者や東急不動産の社員も、自分が運営側だったらどうするかという従業員目線でいろんなシミュレーションをしました。まずサービス基準を企画・ドラフトして、実際に運営する人たちの意見を聞いたうえで、合宿を行って共通認識を固めていく。というのは今までなかったやり方でした。またしょうざん様とも開発段階から協議を重ね、リゾート全体として質の向上を目指した運営改善に取り組んできました。ただ、これくらいしないとラグジュアリーホテルを運営することができなかったと思うので、本当にやってよかったというか、必要なプロセスだったなと思います。
青木
開業してからは担当者ではなくユーザー目線で見ています。推し出したいと思っていたポイントを、まさにゲストが「すごい良かった」と言っているのを見ると、細部まで考え抜くことはとても大切で、そうして作り上げたものはユーザーにもきちんと伝わるんだというのを感じました。私は転職してきて初めて担当したプロジェクトだったということもあって、挑戦をたくさん経験した、忘れられないものになりました。
樽本
私はこのプロジェクトに途中から参加しましたが、開業前の出来上がった段階で見た時にシンプルに「いいホテルができたな」と思えたんですね。それは当社社員の頑張りや土地本来が持つ環境的魅力はもちろんですが、設計・施工関係者の方々が多くの時間を費やして一致団結で作り上げていただいた結果のアウトプットだなと思っています。あと企画段階のワークはとても大事だなと感じました。狙った施策がSNSや口コミで評価されているのを見ると、あのワークのおかげだなと思うことが多々あります。
望月
私は思うように行かないことが多くあったな、と感じています。きちんと時間や必要なプロセスを重ねて考えても、やはり伝わりきらないことがあるし、うまくいかないこともあるわけで。もっとこうしておけばよかったな…みたいなところもたくさんあります。でも、それは、まだまだこの事業が成長できる証でもあるし、自分が自分の仕事に簡単に満足していないことの表れでもあるのかなと考えています。このプロジェクトであれば、次のメンバーに託す、自分自身は次の新しいプロジェクトで活かせるように、また日々勉強するのみですね。
岩田
当社としては初のラグジュアリーホテルへの取り組みということで、開業自体がまずは目標ではありましたが、ホテル運営としてはそこからがスタートです。そういう意味ではまだまだゴールには至ってないことを日々痛感しています。運営メンバーも開業時から変わっていくので、開発時に大事にしたことをホテルのDNAとしてどう埋め込み価値として保っていくかは今後の課題として難しいところであり注力すべきところだなと感じていますね。ただ、課題があるのは決して悪いことではありません。今ある課題はこのROKU KYOTOが、より良いリゾートとして進化していくための種ともいえると思っています。今後の進化に期待していただければと思います。