布目 海大
戦略事業ユニット
インフラ・インダストリー事業本部
風力発電事業開発部 松前事業所
※所属・部署名は2024年3月1日時点
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総合不動産ディベロッパーである東急不動産が再生可能エネルギー事業に取り組む理由
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“松前町の課題と、東急不動産と一緒に取り組むことになった経緯
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松前風力発電所での新しい挑戦、そして東急不動産が目指すプロジェクトのゴール
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風力発電と蓄電池の「マイクログリッド」構築に挑戦したきっかけ
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発電所の建設だけでなく「まちづくりのパートナー」として心がけていること
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まちづくりの中で、将来を担う子どもたちに向けた取り組みを重視する理由
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今後、松前町と東急不動産が目指すまちづくりビジョンとは
東急不動産は2014年から再生可能エネルギー事業に取り組んでいますが、当社がこれまで行ってきた開発事業は、地域課題をまちづくりによって解決する事を主眼に置いています。脱炭素化やエネルギー自給率といった国際的な課題から、過疎化や産業の衰退といった地域レベルの課題まで、様々な課題に対してのひとつのソリューションが再生可能エネルギーであると考えています。東急不動産が今まで取り組んできた住宅やビル、商業施設といったアセットと同じく、再生可能エネルギー事業についても土地を仕入れて、建物を建てて、それを運営していくという基本的な進め方は同じです。東急不動産がこれまで不動産業で培ってきた開発ノウハウを再生可能エネルギー事業でも活かしながら、解決につなげていくことに取り組んでいます。
東京から松前に赴任して肌で感じていますが、風はとにかく強いです。
北海道の日本海側は季節風の影響で冬場の風況が非常に良いです。その中でも松前町は全国でもトップクラスの風況を有しています。オープンデータの風況マップ*を見ても、赤が一番風が強いことを示す中で、松前町周辺は真っ赤みたいな(笑)ですがこれは風力発電にとっては逆にチャンスでした。
風が強いというのは、松前町の皆さんも認識されています。松前町は漁業が主力産業ですが、風が強いと波がしけて漁にも影響が出ることもあります。漁師町だからこそ、松前町の人からすると、風は意外と身近な存在だったのかなと思います。ただ、それまでは、デメリットとして捉えられていた風の強さを有効活用するという意識はなかったと思います。
*風況マップ
平均風速や瞬間風速、風向き、風速の乱れといった風の状態や性質を表した地図。
松前町は当社が保有する風力発電としては第1号案件なので、ノウハウの無いところからの新しい挑戦でした。大型の風力発電設備で、且つ蓄電池を併設して、北海道電力ネットワークの出力変動要件に対応している発電所は北海道内では初めての事例でした。
プロジェクトのゴールとしては、やはり『社会課題を解決する』ことが1番だと思います。 当社の再生可能エネルギー事業「ReENE(リエネ)」でも、①脱炭素社会の実現②地域との共生と相互発展③エネルギー自給率の向上を目的としています。再生可能エネルギーをきっかけに松前町をより盛り上げ、サステナブルな町に変えていくということが、現地に事務所を構え、地域密着型で開発を進めていく我々のミッションでした。
2018年の北海道胆振東部地震の際、松前町は震源地から直線距離で200km以上離れているにも関わらず、約2日間のブラックアウトを経験しました。この経験から、災害対策としてレジリエンスの強化の必要性が強く求められました。その中で、松前には発電量が大きく、且つ蓄電も出来る風力発電所があるので、それを使って災害時に電力供給できるシステムを作ったらいいんじゃないか、というところからマイクログリッドの構想が始まりました。既存の配電網を使って、災害時の防災拠点だけでなく一部の一般家庭にも電力を供給するシステムの構築は、当時の日本で例はなく、ゼロからの新しいチャレンジでした。現在システムの構築が完了していますが、このノウハウを様々な形で活用して、更なる再エネ拡大に繋げていきたいです。
まちづくり事業を行う上ではまちを知らないといけませんし、まちの課題をどのように解決していくか常に模索していかなければなりません。まちの実情や困り事を拾い上げ、解決策を提案するためには、地域の方々と信頼関係を構築していくことが非常に重要であると思います。再生可能エネルギー事業は多くがSPC*事業で、誰が発電所を開発して、所有しているのかが分かりづらい中で、当社は顔の見える事業者でありたいという思いがあります。
些細な事と思われるかもしれませんが、例えば地域のイベントに出たり、居酒屋に行って色々な人と顔馴染みになることも実は非常に重要であると考えています。そういった行動を通じて、東急不動産が地域に根差してやっていく姿勢を見せることではじめて得られる意見や考え方がありますし、そういった行動の積み重ねで協力してもらえる人や共感してもらえる人を増やしていくことが重要だと思っています。本音で話してもらえると貴重な意見が沢山出てくるもので、それこそ松前商工会青年部が主催しているサマーフェストのイベントで「風力発電の電気を蓄電池を使って活用してみたら」というアイデアを貰い、ポータブル蓄電池を夏祭りの照明に活用したという経験もあります。
*SPC
特定目的会社 specific purpose company の略。資産を所有する“箱”として機能するのが特徴で、ペーパーカンパニーの一種であることから、顔の見えない会社になることがある。
- 松前町と東急不動産で再⽣可能エネルギーによる地域活性化に関する協定を締結(2019年12⽉)
- 松前町のまちづくり計画策定に向けた連携に係る協定を締結
(2022年3⽉) - 町内の子どもたちへの環境教育に関する協定を終結
(2022年 7⽉)
子ども達に対して再エネ教育の取り組みを行っている狙いの一つは、プラスの意見も、マイナスの意見も、素直なリアクションなので、反応がわかりやすいことです。
また、いろいろな取り組みのきっかけ作りになるのは大人よりも子どもだと思っていて、若い世代に風力発電に対してなるべく親しみを持ってもらうことで、将来の再エネ地域人材創出に少しでも繋がればと考えています。
松前町でも過疎化が進んでいて次世代の担い手がいないことが非常に大きな課題になっています。進学や就職で町を出る人が多いので、再生可能エネルギーに限らず、主要産業である漁業や観光業と併せて地域学習の一環として「松前町はいい町だよ」っていうことをアピールして、町に残って仕事をするという選択肢を少しでも持ってもらえるようになると良いなと考えております。
松前町と東急不動産が官民連携で作成した「松前町スマート・シュリンク・SXビジョン」では①地域の外にお金が流出し、地域内での経済循環が生まれていないこと②人口減少で担い手がおらず、産業の衰退につながっている事を課題として挙げています。その中で、人口減を受け入れつつも、いかにそのスピードを緩やかにして、町としての持続可能性を維持するか、という事をテーマにしています。
その中では6つの重要施策を掲げていますが、再生可能エネルギーもその施策の1つに該当します。地域で発電した電力を地域で消費するRE100をはじめとした、様々な取り組みが計画されています。
当社もこれまでリエネ松前風力発電所の運転開始から端を発して、非常時に電力を供給するマイクログリッドの設備導入や、再エネと関連した各種まちづくりの取り組みを推進しています。
再エネを新たな主力産業として、他の産業への波及も含めて町全体を地域活性化させていくビジョンを描いており、当社としても更なる再生可能エネルギーの導入やまちづくりを通じて貢献していきたいです。
*RE100
企業が事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーでまかなうことを目標とする国際的イニシアチブ。