※所属・部署名は2024年3月1日時点
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『東急プラザ表参道「オモカド」』開業から12年。ハラカドプロジェクトが立ち上がるまで
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従来の商業施設にはないものを目指して
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新しい商業施設を伝える、新しい販促方法
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外装・商環境デザインで「原宿らしさ」を追求する
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テナント・クリエイターと文化創造型の商業施設づくり
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開業を迎えて、今後のハラカドに向けた期待と課題
池田
2012年に東急プラザ表参道「オモカド」を開業し、その翌年に原宿オリンピアビルアネックスという建物を買収しました。当初は単体の建て替え事業を視野に買収しましたが、街には解決しなければならない課題がありました。商業施設が多く立ち並ぶエリアにも関わらず街区に商業の賑わいが欠けていること、変形五叉路により神宮前交差点に安全な歩行者滞留空間をつくる必要があったことなどです。
東京都や渋谷区、地権者、地域の皆様とこの課題にともに向き合い、2016年の都市計画決定を受け、①国際的な観光地に相応しい商業拠点の形成、②後背地への歩⾏者ネットワーク基盤の強化、③明治神宮前交差点に相応しい都市景観の形成、④安全安心なまちづくりを基本方針に、再開発事業として東急不動産が主導してこの街づくりに取り組むことになりました。
再開発を進める上で、私たちはこの街が持つ歴史的背景に着目しました。昔、代々木公園の敷地には米軍の集合住宅「ワシントンハイツ」があり、アメリカと日本の文化が交わって唯一無二のカルチャーが生み出される場所でした。また「原宿セントラルアパート」という住居兼商業施設が現在の東急プラザ表参道「オモカド」の場所にあり、多数のクリエイターや文化人が入居していました。ここでコミュニティが生まれ、さまざまな文化が発信されました。その後も裏原文化やカワイイ文化など、
カルチャーがアップデートされながら生み出される街という歴史が積み重ねられています。この背景や空気感を途絶えさせない、さらに新しいカルチャーが生まれる場所にすることが、私たちの描くゴールです。
新しい文化が生まれるには、街に根付く人たちの存在が欠かせません。そこからさらに拡散し、その空気感に惹かれる人が集まり、また次のカルチャーが生まれていく。それを支える新たな商業施設が『東急プラザ原宿「ハラカド」』です。




池田
再開発事業として着工したのが2020年3月です。ちょうどコロナが流行し始めた頃でした。世の中の流れは大きく変化しましたが、ハラカドを通じて原宿・神宮前エリアを新しいカルチャーが生まれる場所にする、という想いは変わりませんでした。一方で、コロナを機にデジタル消費の流れが加速し、テナントさんの入居減少も重なり、商業施設のあり方には大きな変化が求められていました。
このときにハラカドも、賃貸事業モデルをブラッシュアップしました。テナントさんも、これからのカルチャーを共につくるパートナーです。商業施設を建てて、テナントさんに貸し出すという、従来通りのオーナーとテナントの関係性ではなく、施設のコンセプトを共有して一緒にやりたいと思ってもらえるような企画を追求してきました。その結果、クリエイターが集まる拠点としての機能が整理され、「銭湯」「雑誌のアーカイブスペース」「シェアカフェラウンジ」の3つの企画を中心に据えることにしました。
今振り返れば、コロナによる影響がなければ、ここまで新しさを盛り込むことはできなかったかもしれません。コロナ自体は決して良いニュースではありませんが、課題が明確になったからこそ、生まれたチャレンジもあったと思います。
川島
緊急事態宣言が解除されてすぐの頃、社内では部長陣が集まって、これからの商業事業の変化についての話し合いが行われていました。そこで決まったのが「フレキシブルな賃貸」「施設のメディア化」「データ活用と新しいサービス展開」という三指針です。計画変更等はありましたが、社内でこの指針が認知されたことで、メンバーは新しい方向性に基づく決断がしやすくなったと思います。実際に東急プラザ表参道「オモカド」の5階では、2023年8月にフレキシブルな賃貸モデルを実装し、ハラカドでは施設のメディア化に挑戦しているところです。
山野
とはいえ、社外関係者にご理解いただくのには時間がかかりました。新しい企画が決まったのが、すでに新築着工済みのタイミングだったこともあって、ゼネコンさんや設計者さんには、想定外の依頼が多く発生してしまったはずです。ですが、企画を変更してまで何を実現したいのか、なぜ実現したいのかを丁寧にご説明したところ、強い意思と覚悟を皆さんに理解していただきました。その後の対応にも手を尽くしていただいたおかげで、当初のスケジュールを大きく遅らせることなく開業を迎えることができました。




宮地
これからの時代に求められる商業施設として、企画を検討していた時に出た案の1つが「原宿セントラルアパート」を復活させて、ハラカドからまた新しい文化を発信するということでした。そこから「アパート=住む場所」として、どんな機能があればクリエイターのためのアパートとして成立するかを考え、各フロアに役割をあてています。
川島
3階の「クリエイターズプラットフォーム」は、アトリエの位置付けで、ハラカドのメインコンセプトの中心的役割を担っています。会員制のカフェラウンジなど、コンセプトに興味を持ってここで創作活動をしたいという企業がすでに集まっています。
大西
コミュニティをつくる上では、「ここにいたいな」「参加したいな」という気持ちを持ってもらうことと、個人の参加ハードルを下げる仕組み作りが必要です。そこで生まれたのが、「BABY THE COFFEE BREW CLUB」というクリエイター向けのカフェラウンジでした。会員になるだけで簡単にコミュニティに参加でき、イベントを開催したり自分の商品を棚に置いたりできます。クリエイター同士やテナントさんと繋がりたい人に向けて、クリエイター個人との接点をディベロッパー側からしっかり拾いにいくという新しい取り組みです。
大西
商業施設としてのあり方を問われていた時、同じく全国で数が減り続けている銭湯業界で、銭湯を続けていくための挑戦をされていた高円寺の小杉湯さんに出会いました。銭湯をきっかけにハラカドは日常の中に溶け込み、これまで以上に地域と連携していけると思っています。また、ハラカドではこうしたテナントさんと一緒に新しいプロモーションも展開しています。「プロセスの可視化によるファンコミュニティの形成」を打ち出し、一般消費者を巻き込みながらファンを作っていこうというプロモーションです。これまでのようにテナント名のみを打ち出すのではなく、完成するまでの間、そこに集う人がどんな想いで準備を進めるのか、何をしていくのかの取り組みや想いを発信し、共感する人たちを集めていこうというものです。




宮地
ハラカドの外装の特徴は、屋上がしっかりと見えていることです。東急不動産が運営するこれまでの東急プラザにはない特徴で、神宮前交差点から見た時に「あそこに何か面白そうな場所があるぞ」と感じていただきたい気持ちからこの外装になりました。ハラカドの最上階にふさわしいよう、多様なインスピレーションが融合し共存する空間、想像力が加速する生命観溢れる環境を目指しました。神宮前交差点を挟んで対面に位置する、東急プラザ表参道「オモカド」のオモハラの森というテラスは緑で囲われていて落ち着くような心地良さが体験できます。ハラカドはあらゆる要素をオモカドと対比させて、街へ開かれた空間を意識しています。
外装全体は加工と角度が異なるガラスで構成しています。通常のフラットなガラス箇所からは商業施設の中のにぎわいが見えます。多方向に角度がついた反射率の強いガラス箇所は季節ごとに移りゆく街並みや空、人の様子が映り込みます。時間の流れとともに外装が表情を変え、街と共存し街の中で生きている施設をイメージしました。
川島
東急不動産の商業施設は屋上の使い方を工夫しています。そのきっかけは約55年前に開業した東急プラザ蒲田にあり、今や都内唯一の屋上観覧車は、当時から地域の方に愛され、地域の憩いの場となりました。東急プラザ銀座やオモカドでも、屋上の活用に力を入れています。屋上は賃料が取れないので、設備スペースにする例も多くありますが、私たちはこれまでの経験上、コミュニケーションの場としての屋上が必要だと考えています。お客様やテナント様さんが喜んでくれる環境づくりを大事にしているため、今回のハラカドも丁寧に計画しています。
山野
原宿エリアは、大通りには煌びやかな路面店が立ち並び、一歩裏に入ると細い道には小さい個性的なお店がたくさん並んでいるイメージがあると思います。ハラカドの内装も、そうした街のイメージや歴史、成り立ちを踏まえてつくりました。建物内に入るとストリートが広がっているような造りになっていて、まるで外にいるような気分が体感できます。そのために外装用の仕上材を使ったり、キャットストリートにあるような階段・スロープを取り入れたりしています。3階はクリエイターが集まるフロアなので、ここからクリエイティブなものを創造・発信していく場所という思想に合わせて、あえて仕上げ過ぎないことを意識しました。
関わっている関係者が多く、皆さんクリエイティブなマインドを持っているので、それぞれの意見を集約して1つのものをつくる作業は大変でしたが、そうした調整の苦労があったからこそ生まれた空間になっています。




東海林
ハラカドでは原宿が持つカルチャーとその発信力に焦点を当て、街に思い入れのあるブランドを中心にリーシングを行うという、新たな挑戦を行っています。これまでECや短期POP UPのみで展開してきたブランドに対しても、情熱を持って出店提案を継続したことで、厳しい状況の中でも前向きに検討していただけるテナントさんが増加しました。
リーシング担当として、コロナによる制約もあった中で契約締結先が増えたことはとても嬉しかったです。ハラカドのみではなく、当社が広域渋谷圏で取り組む都市メディアやコンテンツ開発の考えに共感し、魅力を感じたことで出店に合意していただいた先もあり、今も深く印象に残っています。
ハラカドでは都心型商業施設の新たな事業モデルにすることを目指しているため、私たちにとっても初めてとなる取り組みが数多く含まれています。その一つが共創パートナーと共に行う「コミュニティマネジメント業務・CM業務」です。CM業務とはテナントさんから要望を引き出し、テナント同士や東急不動産、さらに周辺地域のステークホルダーを巻き込み、ハラカドでしか体験できないイベントや企画を実現するための推進行動です。例えば、ハラカドに出店する化粧品メーカーと飲食フロアの各テナントさん達による「食べてキレイになるメニュー」といったコラボ企画を実現させることで話題を呼び、ハラカド自体の価値も高まるといったことを期待しています。とても抽象度の高い領域なので、分かりやすく言語化することや定量的な評価指標の構築に取り組むことで、日々ステークホルダーの解像度を合わせながら業務を行っています。


池田
次のステップはハラカド・オモカドと周辺の物件を繋ぎ合わせた時に、このエリアからどのような価値が生み出され、街に対して還元ができるかだと思います。原宿・神宮前エリアの魅力をさらに高めていくための役割を担うのがハラカドです。ようやくスタートラインに立ったという感じですね。
大西
商業施設に人が来なくなる理由の一つに更新性があると考えています。オンラインの世界では常に新しい商品や情報が流れてくる一方で、このスピードにリアル店舗の賃貸業が追いつくのはとても難しいです。運営サイドのマインドや体制で、商業施設も常に更新し続けることが大切になってくるはずです。
川島
不動産は開業から50年、100年と続くものです。どうやってお客様に新しい価値を提供し続けるかを問う意識を、今後の運営に繋いでいくことがポイントになると思っています。いろいろな思いが込められているのを知っているからこそ、数枚のリリース情報だけで理解してもらえるのか、どうすれば多くの人に共感してもらえるかは、今も悩みながら取り組んでいます。東急不動産の新しいチャレンジを多くの方に知ってもらいたいです。
大西
私は、いろいろな人に愛着を持ってもらいたいと思っています。今後リピーターになって「ここが自分の場所」と捉えてもらえたらとても嬉しいです。ですが、その前に4月の開業という、担当者として大きな出来事が待ち構えています。開業のときにどんな印象を持たれるのか、愛着を持ってくれる人が生まれるのか。ただ楽しみなだけではなく、不安や緊張が混ざった不思議な気分を体験する貴重な機会になっています。
宮地
地域との関わりを大切にしているからこそ、地元の人たちに受け入れてもらえるかというのはとても意識しています。街の魅力というのは、地域の人たちの力があってこそ育つものです。開業後も地元の人たちと同じ目線で仕事することを忘れてはいけないと感じています。
山野
私は、いろいろ大変なことがあった一方で、実際に建物が完成して開業を迎えることに感動しています。建物づくりは学生時代からずっと憧れていたことでした。それを初めて体験できることの喜びが大きいです。
東海林
ハラカドでは都心型商業施設の次の事業モデルとするべく、新たなチャレンジが多数組み込まれています。これを一つずつ軌道に乗せて、その事業モデルを広域渋谷圏の様々な事業と連携してエリア価値を高めていくきっかけにしていきたいと思っています。また、どんなにシステム化しても最後は人と人。熱量をもって開発・営業に取り組んできて、その熱量を信じて出店してくださっている方々が大勢いるので、期待にお応えできるよう、運営においても同様の熱量をもって今後も取り組んでいきたいです。





